2016年に公開された新海誠監督のアニメ映画『君の名は。』。
このお話は、ただの恋愛ストーリーというだけではなく、実はもっと奥が深い映画なんです。
物語のとても大切なカギとなるのが、「ティアマト彗星」という彗星。
この彗星が、空でふたつに分かれて、小さな町に落ちてしまうというシーンは、観た人の心に強く残りましたよね。
でも、ここで少し考えてみませんか。
このページでは、星や宇宙のお話をしながら、『君の名は。』に出てきた彗星のシーンが、どれくらい本当のことなのかを一緒に見ていきたいと思います。
この記事を読むとわかること
- 『君の名は。』の彗星が分かれるシーンの意味と、科学のお話
- 本当にあった「分かれた彗星」のお話
- 新海誠監督がこだわった、本物そっくりな星空の描きかた
- 映画を観た人たちが、どんなことを感じて、考えたのか
ティアマト彗星とは?名前の由来と意味
映画に出てきて、地球に近づいて、最後は分かれて落ちてしまう彗星。
この彗星には「ティアマト彗星」という名前がついています。
実はこの「ティアマト」という名前、**大昔の神話に出てくる女神さまの名前**から来ているんです。
ティアマトは、何かをこわす力と、新しく何かを生み出す力の両方を持っていると伝えられている、始まりの女神さまです。
神話の中では、このティアマトの体がふたつに引き裂かれて、空と大地が生まれた、とされているんです。
彗星が町をこわしてしまう「破壊」の部分と、そのおかげで主人公の瀧くんと三葉ちゃんが出会い、未来を変えていく「創造」の部分。
ティアマト彗星という名前には、この映画の大切なテーマが込められていたんですね。
本当に彗星は分裂するのか?
いきなり答えを言ってしまいましたが、彗星が分かれることは、映画の中だけのお話ではないんです。
昔から、天文学者たちが空を観察していて、彗星がいくつかに分かれてしまったのを、何度も見てきているんですね。
彗星の本体は、「汚れた雪だるま」によく例えられます。
氷や砂、石ころなんかが、ふんわりと固まってできているんです。
なので、とっても壊れやすいんですね。
分かれてしまう原因はいくつか考えられていて、たとえば、大きな星の近くを通るときに、星がぐーっと引っ張る力(潮汐力)でバラバラになったり、太陽に近づいたときに、熱で彗星の氷がシューっとガスになって吹き出して、その勢いで壊れてしまったりします。
シューメーカー・レヴィ第9彗星(1994年)
たぶん、一番有名な「分かれた彗星」です。
この彗星は、木星という大きな星の近くを通ったときに、引っ張られる力に耐えられなくて、21個以上に分かれてしまいました。
そしてその破片が、次々と木星にぶつかったんです。
星と星がぶつかる瞬間を、私たちが初めて見ることができた、すごい出来事でした。
シューメーカー・レヴィ第9彗星日本経済新聞より引用
73P/シュワスマン・ワハマン第3彗星
この彗星も、1995年に分かれているのが見つかりました。
その後もどんどん分かれていって、2006年には、60個以上の小さな彗星たちが列になって飛んでいるのが見えて、まるで「彗星のパレード」のようだと話題になったんです。
これらの本当のお話を知ると、『君の名は。』でティアマト彗星が分かれて、そのかけらが落ちてくる、というお話も、**科学から見ても「ありえるかも」と思える、とてもリアルな設定**だということが分かりますよね。
73P/シュワスマン・ワハマン第3彗星Wikipediaより引用
新海誠監督の天文描写へのこだわり
新海誠監督の映画は、空や雲の絵が、信じられないくらい綺麗なことで有名です。
『君の名は。』でも、そのこだわりが強く、彗星がどんなふうに動くか、夜空の星がどこに光っているか、びっくりするくらい本物そっくりに描かれているんですね。
こういうソフトを使うと、「この日のこの時間、この場所からは、こんな星空が見えるはず」というのを、正しく知ることができるんですね。
だから、映画の中の星空も、ちゃんと計算されて描かれているんです。
ただ綺麗なだけじゃなくて、彗星の動き方や、分かれたときのかけらの広がり方も、もしかしたら本当にこうなるのかも、と感じさせてくれます。
このように、ただの背景としてではなく、**「いつか本当に起こるかもしれない星の出来事」として描いている**からこそ、物語にグッと引きこまれてしまうんですね。
ティアマト彗星がもたらした意味
彗星は、昔から、急に空に現れて、ほうき星のような不思議な形をしていたので、「何か良くないことの前ぶれ」だとか、「何かが大きく変わるしるし」だとか言われることが多かったんです。
『君の名は。』では、そんな彗星のちょっと怖いイメージと、「入れ替わり」や「時間をこえる」といった不思議な出来事が、うまく合わさっています。
悲しい出来事を引き起こすけれど、それがなければ出会えなかったふたりを結びつけてくれる。
まさに、**彗星=運命の分かれ道**という、物語のとても大切なしかけになっているんですね。
ファンの間での考察と話題
映画が公開されてから今まで、『君の名は。』について、たくさんのファンが色々なことを話したり、考えたりしてきました。
特に、「どうして彗星はあのときに分かれたの?」とか、「本当にあんなふうに落ちてくるのかな?」といったお話は、インターネットですごく盛り上がりました。
「あの彗星、昔本当にあったシューメーカー・レヴィ第9彗星を思い出して、綺麗だけど怖かったな」
「1200年ごとに同じ場所にかけらが落ちるって、どれくらい珍しいことなんだろう?不思議だなあ」
こんなふうに、物語に感動するだけでなく、科学の「なぜ?」を考えさせてくれるところが、**映画が好きな人と、星が好きな人の心を、素敵につなげてくれた**んですね。
関連作品との比較:災害と天体
星が地球にぶつかって大変なことになる、というお話は、これまでにもありました。
たとえば、海外の映画『アルマゲドン』や『ディープ・インパクト』は、「地球ぜんぶ」や「人類みんな」を救うという、とても大きなお話です。
映画『アルマゲドン』より引用
でも、『君の名は。』が新しかったのは、そのお話を**「ひとつの小さな町」と「ひとりの大切な人」**の物語にしたところです。
世界中の人たちを救う、というのではなくて、「たったひとりの大切な人と、その人のふるさとを救いたい」という、とても個人的な願い。
この切実な想いが、本物そっくりな星空や、災害の怖いシーンの中で描かれるからこそ、観ている私たちは、主人公たちに自分の気持ちを重ねてしまうのではないでしょうか。
大きな宇宙の出来事と、個人の小さな祈り。
この組み合わせが、たくさんの人の心を掴んだ理由なのかもしれません。
今後も起こりうる?現代の彗星分裂リスク
『君の名は。』で描かれたような出来事は、私たちにとって、全く関係ないお話なのでしょうか。
実は、NASAやJAXAといった世界中の宇宙の研究機関は、今も空をずっと見張っていて、地球に近づいてくるかもしれない危ない星(NEOと呼ばれます)がないか、いつも探しています。
今では、AIを使って「いつ、どこに落ちるかもしれない」と予測したり、彗星がどうやって分かれるのかを研究したりすることが、どんどん進んでいるんですよ。
NASAが、探査機を小さな星にわざとぶつけて、その星の進むコースを少しだけ変える、という実験(DARTミッション)です。
この成功は、もし将来、本当に危ない星が見つかったとしても、私たち人間には、それをよけるための技術があるんだ、ということを初めて証明してくれました。
【19日木曜22時~ #地球防衛 @ BSP・BS4K】
リアルタイムで送られてくるDARTミッション当日の中継映像や音声もドキドキしながらご覧ください!
少しずつ鮮明に見えてくる小惑星の姿に興奮です!!#コズミックフロント pic.twitter.com/2KGlRJpdQT
— フロンティア (@frontiers_nhk) January 14, 2023
つまり、**『君の名は。』のような出来事は、もう映画の中だけのお話ではなく、私たちが「もしも」に備えるべき、現実のテーマ**にもなっている時代なんですね。
この記事のまとめ
- 『君の名は。』の彗星が分かれるシーンは、昔本当にあった彗星のお話がヒントになっています。
- 彗星は、大きな星に引っ張られたり、太陽の熱を受けたりして、本当に分かれることがあります。
- 新海誠監督は、本物そっくりに見えるように、科学の力を借りて、星空を丁寧に描いています。
- 映画の中の彗星は、ただ怖いだけでなく、運命を変えるきっかけになる、大切なシンボルなんです。
おわりに
『君の名は。』は、素敵なラブストーリーでありながら、その中には、星や宇宙、災害、そして神話といった、色々なテーマが優しく織りこまれている、とても奥の深い作品です。
彗星が分かれるシーンひとつだけでも、そこには科学的なリアルさと、物語にとっての大切な意味が、丁寧に込められていることが分かりますよね。
もし今度、夜空を見上げることがあったら。
そして、流れ星や、もし運が良ければ彗星を見つけることができたら。
そのとき、少しだけこの映画のことを思い出してみてください。
どこか遠い場所で、あなたと誰かを結ぶ大切な糸が、また新しくつながる瞬間が、訪れるかもしれませんよ。
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